フラベリック錠と絶対音感

【はじめに】
いろんな方が既に記事を書いているけれど、念のため記録しておくと同時に、いわゆる「絶対音感」を持っていない方からすると「え、それって大変なの? それとも割とどうでもいいの?」という疑問を持つと思うので、その視点からもできるだけわかりやすいように書いてみます。

【事の発端】
先週土曜日頃に熱を出してしまったので、週末を家でおとなしくしてなんとか乗り切り、月曜日に医者へ。風邪だろう*1ということで、いくつか薬を処方してもらうことに。

  • PL配合顕粒
  • フラベリック錠
    • 有効成分はベンブロペリン。咳中枢や肺、気管支などに作用し、咳を抑える。
  • ケジフェン錠
    • 有効成分はセラペプターゼ。炎症を抑える薬。
  • メチスタ錠
    • 有効成分はL-カルボシステイン。いわゆる「痰切り」で、痰や鼻水を出しやすくする。
  • クラリス

症状もひどいということで、上記の薬を一通り飲んで、月曜日は夕方からずっと寝ていました。


【日常の「音」に違和感】
で、火曜日の朝起きると、あからさまな異変を感じるわけです。生まれつき絶対音感を持っているんだけど、その感覚が「変」になっている。自分がどういうふうに感じているかをできるだけ客観にもわかるように解説しながら書いてみます。

  1. まず、目覚ましの携帯アラーム音が変に聞こえる
    • これはあんまり変だと思わない。今日は変だな〜、ぐらい。なにせ、寝ぼけてますから。ただ、携帯のアラーム音にも「音階」が存在します。それを何度も聞いていればその音階を覚えてしまうのです。で、その覚えた音階と、実際になっている音階がずれている。覚醒後は気持ち悪く感じます。自分の場合は寝起きでそこまでシャキッとしてないので、そこまでの違和感は感じません。まぁ、へんだなぁ、とは思いますが、その程度で。
  2. 朝ごはんのおかずを温めるための電子レンジのプッシュ音、終了音が半音程度低く感じる*2
    • まずキーを押した瞬間に「ん?」とおかしく感じる。でも別に機械が壊れているわけではないので、操作続行。我が家のレンジは終了時チャイムが鳴るタイプですが、その音階がずれているのを聞いて「なんじゃこりゃー!」という気分になります。この時点で「壊れたかも……?」と思ってしまうんですが、そわそわしながらおかずを取り出すけど、異常がないことを確認してホッとしたりします。
  3. あわててパソコンの音楽を聴いてみると、やっぱり半音程度低い気がする
    • 地味にすごく気持ち悪い。絶対音感というのは、「自分の感覚でその曲の音程がわかっている」わけだから、たとえば(自分の音感がずれていることを知らずに)その曲をアカペラで歌ったとしたら、原曲と必ず半音ほどずれるわけで……。普段はアカペラで歌ってもずれない音が、必ずずれる様になる。基準が自分の中にあるので、この感覚を修正するのは難しいのです。自分に確かな音感があればあるほど、容易ではなくなっていくでしょう。
    • ためしに、「聞々ハヤえもん」あたりを使って、ピッチを-1して聞いてみてください。はたしてあなたは、違和感を覚えるでしょうか。
  4. 出勤しても電話のコール音、コピー機のプッシュ音等が低く感じる
    • 絶対音感があると、たとえば救急車のサイレンの音や信号機の発する音も全て音階に聞こえます。それがいつもと違う、というだけで、すごい違和感があるのです。先程も述べたとおり、絶対音感とは「自分の中に基準となる音があって、大体の人はそれに頼ってしまうから」です。

体調不良でこういう感覚になるのか?と勘違いして「今日は音まで変だなーあははー」と思ったけど、そうすると週末や月曜日は普通だったよな……?と思い、一応ネットで調べてみる。すると、いろんなブログ記事がヒット。
風邪薬「フラベリック錠」と絶対音感の関係 - Tosikの雑記
フラベリック錠 〜音楽な人の副作用〜 - ぽたまのつぶやき - 楽天ブログ(Blog)
「フラベリック」錠を飲んだら音感異常が起きた - 大「脳」洋航海記
どうやらこいつが悪さをしているようだ、ということで、お医者さんで薬を交換してもらうことに。
Twitterでも反応が。同じような経験をしている人からリプライが寄せられました。匿名で原文ママ載せておきます。

@tokeimawari 違う風邪薬処方してもらって下さい。PLは中枢系に作用する成分が多いので。熱だけ下げたいならカロナール等で。
@tokeimawari むかしてんかんの薬を飲んだ時同じ症状にかかりました ふつーのチューニングでバンプが弾ける不思議な感覚 お医者さんによると、音感がないと自覚症状がないので副作用としての報告例が少ないそうです 原因がわかるまでかなり時間がかかりました (続き)というか音楽やってる人間にとってこの副作用って怖過ぎますよね かかった直後は軽く絶望しました
@tokeimawari 自分も同じ副作用で二度と飲みたくないと思いました。この薬、音楽系の仕事してる人は飲めないですよね。

上記のツイートをtogetterでもまとめてありますので、ご参考までに。


【一日過ぎても音感の変調は続く】
Twitter便利だな」とつぶやきつつ早めに寝て、起きた次の日。この「音が下がる」症状は続いています。半音まで行かず、微妙にピッチが下がっているだけなんですが、この状態のほうがかえって気持ち悪いです。いっそ半音近くずれているほうが楽かもしれません。今の状態は「いずい」*3といって差し支えない状態なんじゃないかと。
ちなみに、発売元のファイザー製薬さんは、2006年に上記の副作用についてアナウンスをするようにした経緯があります。(リンク先・PDFファイル)ただ、自分が処方箋を持っていった薬剤師さんからは、そういう説明はされなかったなぁ……。


【まとめと雑感】
余談。

昔、音楽をやってる後輩*4から「私、絶対音感とか信じてませんから!」みたいな意見をもらったこともあります。単純に僻みのかなあ、かわいいなあアハハ、で済ませました。本人にとってはどれだけ屈辱的なことか理解できないんですが、絶対音感は感覚だから正確な証明の仕方がない上、その感覚を共有することも難しいので、説明するのが非常に面倒です。それに、その感覚をどれだけ信用するかはその人次第なので、持っているから有利、持っていないから不利、とひとくくりにはできないと考えています。

それはさておき、感覚が狂うというのはひどく困ったものです。

  • いつも握っている車のハンドル・レバーの大きさが違ったり、アクセル・ブレーキの効きが違う気がする。
    • →いつもの感覚でハンドルを切ると曲がりすぎるor曲がらない
    • →いつもの感覚でブレーキを踏んでも止まりづらいor急に止まる気がする
  • いつも使っている自転車のギアが重く感じる
    • →ペダルをこぐと進みすぎるor思ったより進まない気がする
  • いつも使っているガスコンロの火が弱い気がする
    • →火力を上げたらすぐ焦げてしまった

うまく他の日常に結び付けられないんですが、公共交通機関の運転手さんの運転感覚が狂ったら大変なように、音楽やってる人間からすればこの副作用はかなりのストレスを生じると思います。
自分の場合は趣味でDTMやったり趣味でバンド組んでたりする程度ですが、バンド練習の日にこの副作用を持ち込んだら下手すると楽器が弾けなくなるんじゃないか、と思います。*5とりあえず、今は「お薬手帳」という存在もあるので、「フラベリック錠はNG」と医療機関・薬剤師さんにはっきりと伝える努力はしようと思っています。
差し当たり、絶対音感を持っている人には「フラベリック錠の服用はNG」ということでひとつ。当然、(ジャンル問わず)音楽を仕事にしている人が服用するのはもってのほかでしょう。

*1:医療的見地からすれば「風邪」という病名はないので、正確には「咽頭炎」という診療だったんじゃないかと思う。当然それはお医者さんだから、それをわかった上で自分にそう伝えてくれている。念のため補足しておく。

*2:「低く感じる」と書きましたが、「低い」と言い切ってもいい場面ではあります。ただし、絶対音感はあくまで「感覚」なので、少なくとも自分がその感覚を使う場合、絶対的な信用はしていません(チューニングとか)。なので、「低く感じる」という表記にしました。

*3:東北弁だそうです。意味としては「どことなく(微妙に)心地が悪い」という感じなんですが、正確に意味を置き換えるのが難しい方言として有名(?)です。

*4:かなり「上手い」バンドなので、そういうプライドもあったんだろうなぁ、と後々思ったりする。

*5:大抵の場合、「風邪引いてるのにバンド練習に行くな!」という話が先に立つと思いますが。