旅の終わり――t.c.electronic VS LINE6――

前回の記事の続き。島村楽器さんブログの中の人にしっかり捕捉されている。それにしても捕捉が早すぎる。
とりあえず、長く悩んだ俺の脳内エフェクター戦争に終止符が打たれたので、その経緯をまとめておこうと思う。


LINE6/ラインシックス M9 stompbox モデラー

LINE6/ラインシックス M9 stompbox モデラー

前回の記事でLINE6 M9 Stompbox Modelerの性能をレポートした。「これはいい!」と思ったが、値段と機能が似通っているエフェクターをもう1つ発見したので、そのご報告。
そのエフェクターとは、t.c.electronicのNova System
t.c.electronic Nova System ギターエフェクター

t.c.electronic Nova System ギターエフェクター

いつぞや、ディレイを比べたときの記事で紹介したND-1 Nova Delayを作っているメーカー。

Nova Systemは、シンプルなセットアップとTCクオリティーのエフェクトを両立。ディレイ/リバーブ/コンプレッサー/EQ/モジュレーションと、トーンを損うことのない幅広いTCエフェクトを搭載しています。これらのエフェクトから、60 ものユーザー・プリセットを作成可能。Nova Systemの可能性を示す30のファクトリー・プリセットは多様なエフェクト設定の組み合わせで構成され、瞬時にNova Systemの可能性に触れることができます。
(以上、t.c.electronicJAPAN Webサイトより。http://www.tcgroup-japan.com/TCE/Guitar/NovaSystem/index.html

Nova Delayがすごく良かったので、t.c.electronicのマルチもいいに決まっている!と思った。というわけで、早速どちらも試奏してきました。
実際に触った感想を元に、比較してみます。

  1. 大きさ
    • M9 Stompbox Modeler:26.7cm×6.1cm×16.5cm。BOSSを3つ並べた程度。それこそLINE6 DL4と比べても同じぐらいの大きさ。マルチとしてはかなり小さいんじゃないだろうか。
    • Nova System:284 x 89 x 267mm。M9と比べるとかなり大きく感じる。高さの関係で、エフェクターボードに入らない可能性が高い。シールド接続を考えると、奥行きもやや長いか。それでも、マルチとしてはそこまで大きいほうではない。
  2. 歪み・コンプ
    • M9 Stompbox Modeler:DM4(Distortion Modeler)に入っている歪みがほぼそのまま。デジタル臭がするといえばそれまでだが、種類は豊富。オクターブファズとか、どこに需要があるのかわからない歪みまで網羅している点は面白い。なお、Distortionカテゴリに12種類のコンプレッサー・イコライザーが装備されている。かなり種類が豊富なので、用途に応じて使い分ければかなりの戦力になる。
    • Nova System:アナログ回路によるOverdriveDistortionの二種類のみ。Overdriveはチューブスクリーマー系の中域に寄った正統派オーバードライブで、使いやすい。特筆すべきはDistortionで、音の解像度が高いDS-1風のサウンド。EQやTONEの可変域が大きいため、スラッシュメタル的な音も出せるしアメリカンロックなサウンドも可能。こちらもかなり使いやすく、実用性の高いサウンド。コンプとイコライザーはそれぞれ独立した項目に。3種類のコンプはどれも効きがよい。EQは平凡。
  3. ディレイ
    • M9 Stompbox Modelerモデリングによる19種類のディレイ。それぞれの効果を簡単に把握しておく必要があるが、いろいろな効果があって使いやすい。基本的にはLINE6 DL4と変わらない。中には飛び道具も。
    • Nova System:基本的にはND-1 Nova Delayと同じく6種類。基本的なサウンドが揃っているが、どれも品位が高い
  4. モジュレーション
    • M9 Stompbox Modeler:23種類。基本的にはMM4(Modulation Modeler)と一緒。リングモジュレーション等のめずらしいエフェクトも。ただ、効き方が大雑把な印象も。音の作りこみがモノを言う。
    • Nova System:コーラス・フランジャー・ビブラート・フェイザートレモロ・パンナー(位相エフェクト)の6種。基本的ではあるものの、特にフェイザートレモロあたりは設定項目が多く、多彩なエフェクトが出せる。
  5. バーブ
    • M9 Stompbox Modeler:12種のリバーブを搭載。音色をパッドに変更するリバーブ等、変な効果もあるが、基本的にはシーン別のリバーブが搭載されている。
    • Nova System:スプリング・ホール・ルーム・プレートの4種類。パラメータが多く、設定には戸惑うかもしれないが、適当にかけてもそれらしくなる高品位のものが揃っている。
  6. その他
    • M9 Stompbox ModelerFM4(Filter Modeler)譲りのフィルター機能が充実している。オートワウ的なエフェクト、シンセ風エフェクト等、飛び道具には事欠かない。ちなみに、肝心要のピッチシフターは1種類のみ。名機・Eventide H3000のモデリングらしいが、そこまで凝ったことはできない。
    • Nova System:ピッチシフターが充実している。オクターブはもちろん、ピッチシフト、デチューンも可能。ハーモナイザー的な使い方をしてもかなりの追従度を誇るため、性能は高い。

はっきりいって、どちらの機種もレベルが高い。BOSSのME-50やME-70、Zoomの中堅機種等と比べて、LINE6はエフェクトの種類が豊富、t.c.electronicは特に空間系が上品で実用的な音ばかり、といった感じで、レベルの違いを感じた。まぁ、値段も大分違うんだけど(値段的には、BOSSであればGT-10、ZOOMであればG9.2ttというフラッグシップモデルが対抗馬となるだろう)。

ZOOM ギターエフェクツコンソール G9.2tt

ZOOM ギターエフェクツコンソール G9.2tt

というわけで、2機種の長所と短所を考えてみる。

  1. 長所
    • M9 Stompbox Modeler:飛び道具を多く備えている万能機とにかくできることが多い。また、モジュレーションを2種類かけるなど、同種エフェクトを2つ以上同時に使えるのは強み。一番の強みは、マルチエフェクターなのに直感的な操作ができる、という点で、マルチ初心者にも使いやすい。この点は、BOSS ME-70をはじめとしたMEシリーズに似ている。
    • Nova Systemすべてのエフェクトが高いレベルでまとまっていて、単体のコンパクトに引けを取らないどころか、1万〜2万円クラスでは到底太刀打ちできないレベルの完成度を誇る。全てのエフェクトを同時に使用することができるのも強み。
  2. 短所
    • M9 Stompbox Modeler同時にかけられるエフェクトが3つまで、というのは、これ一台ですべてを完結させるつもりの人間には大きい問題点かもしれない。*1また、トゥルー・バイパスモードにしても音質劣化は免れないので、素直にDSPバイパスで使うことを前提にしたほうがいい。DL4に比べれば音痩せは軽減されている印象を受けたが……。
    • Nova System:常識的なエフェクトばかりで、飛び道具的なエフェクトはあまりない。また、エフェクトによっては設定項目が少なく、コンパクトエフェクターのように細かく作りこむことができないものがあることも、一部ユーザーにとっては不満かもしれない。

自分には見えていない側面もあるので、どちらが優れている、というつもりはない。あくまでこの2機種を比較した結果であって、下手なマルチエフェクターの追随を許さない出来であることは間違いない。






で、色々考えた結果、












LINE6 M9を購入してきました。「色々考えた結果」とは下記のようなことです。

  1. その場その場でも操作しやすいため
    • M9の場合、セッション中に「新しい音が欲しい」と思ったとき、モデリングさえ把握していれば、モデリングから適切なものを引っ張ってくればいいだけなので、非常に簡単。その点NOVA SYSTEMは、音質こそいいものの作りこみで成果を発揮するため、イメージに近づけるためには慣れを必要とする、と感じた。
  2. パッチ切り替えの操作性がいいため
    • M9は6アサイン×4バンク=24通りのパッチを保存可能で、ワンタッチで切り替えられるのは6パッチまで。対してNovaは、60プリセットを作成可能(+ファクトリープリセット30種類)なものの、(外部入力を用いない場合)ワンタッチ切り替えは3パッチまでとなってしまう。さらに、Novaは「ボタンを離したときにエフェクトが切り替わる」「バンクの移動は長押し(0.5秒以上のホールド)」という点も、ライブで使う際には不便に感じる可能性がある。これも、慣れればいいだけの話かもしれないが。
  3. そこまで高品位でなくてもよいため
    • 正直、音だけで考えればt.c.electronic社製のほうがずっとよかった。特にディレイとリバーブ、そしてディストーション。種類は少ないながらも、どれも出音がクリアーというか、透明感がある素晴らしい音だった。でも、ライブで使うことを考えれば、そこまでの音を追求する必要は、自分にはないんじゃないか、と思う。分かりやすく変な音が出せたり、普通のエフェクトが普通にかかれば問題ない。
  4. 歪みは別で用意するため
    • M9はそのエフェクトの不自然さから、NOVAはその種類の少なさから、外部の歪みエフェクターやアンプの歪みに頼る部分が必ず出てくると思う。空間系だけでまとめるだけなら3種類だけで十分だし、空間系の重ねがけが可能なM9のほうが有意である。

この2機種で悩む人、というのは結構多いんじゃないだろうか。同価格帯のマルチ・BOSS GT-10も含めたると3つの選択肢があるが、それぞれどんな人におススメか、というのをまとめてみようと思う。

  • LINE6 M9 Stompbox Modeler
    • いろんな音が出したい
    • マルチの面倒な設定が苦手な人
    • 外部で別の歪みを使いたい人
  • BOSS GT-10
    • マルチ1台で全てをまかないたい
    • 音色をたくさん用意して、それらをライブ中に切り替えたい人
  • t.c.electronic Nova System
    • とにかくひとつひとつのエフェクトにこだわりたい
    • ライブだけでなく、レコーディングでも使える音が欲しい
    • アンプの歪みが気に入っている人

こんなところだろうか。自分のニーズにはまったのがM9というだけで、人によってはGT-10が合うだろうし、Novaが合う人もいるだろう。結局は、どういう使い方をしたいのか、というのが決まっていれば、自ずと必要なものも決まってくるんじゃないだろうか。




というわけで。ディレイやら他の空間系やら色々探してきたけど、結局マルチを買っちゃいました、というお話でした。諸事情でディレイとリバーブとコーラスとトレモロとコンプレッサーが一気に必要になったんだけど、それをカバーできるよい買い物ができたと思う。
ちなみに、展示品しかなかった(し、展示期間も比較的長かった)ので、結構な額を値切ってもらえた。ぶっちゃけその辺の通販価格よりずっと安かった。某店のOさん、ありがとうございます。

*1:例えば、歪み+EQ+コンプ+ディレイ、ということができない。M13は同時エフェクトが4つまでなので、足りない場合はこちらを検討すべし。